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“アリクイ”、名は体をあらわす?
 └─上野  2009/07/31

 上野動物園バードハウス2階入口の前にミナミコアリクイの屋外展示場があります。動物の体調や天候などにより、屋外で展示できないこともありますが、2009年7月4日は朝からメスの「アイ」を出していました(サンシャイン国際水族館から来たアイについては、こちらの動画をどうぞ)。

 その日の夕方のことです。職員が私のところに来て、「係長、アイのようすがおかしいので、動物病院へ連れて行きました」というのです。聞いてみると、「室内に入れようとしたら、自分で木の上から降りてきたんですが、何だか目がとろんとしていて、地上を数歩歩いたら、黒い砂の塊を吐き戻したんです」とのこと。私が「その『塊』まだある? ちょっと見てみたいな」と言うと、「あっ、あらかた片づけちゃいました。でも、まだ少しは床に落ちてたかも……」。

 現場におもむくと、バードハウスの係員詰所の床に黒っぽい塊が落ちていました。アイはここに来てから動物病院に連れて行かれたようです。

 黒い塊を見て「うーん、砂かなぁ?」と疑問に思った私は、餌となる雑魚をすくう網を使って、水で洗ってみました。バラバラになったものをよく見ると、それはすべてアリだったのです。白っぽいアリの繭も混ざっていました。

 7月上旬は羽アリの発生する時期です。大きな石や倒木をひっくり返すと、地表近くにおびただしい数のアリの成虫や繭がよく見つかります。ミナミコアリクイの屋外展示場にもアリはたくさんいるので、アイにとって「アリ食べ放題」だったのでしょう。どうも吐き戻しの原因はアリの食べ過ぎのように思われました。

 アリクイがアリを食べ過ぎて具合が悪くなるなんて冗談のような話ですが、野生のミナミコアリクイの餌はシロアリが主なのです(まったくアリを食べないということはないでしょうが)。シロアリは等翅目、アリは膜翅目に属し、別のグループの昆虫です。等翅目はむしろゴキブリに近く、膜翅目にはハチやアリが含まれます。そしてハチもアリも毒腺をもつことが知られています。

 野生では、成長する段階でアリの毒に対する耐性も養われるのでしょうが、アイはサンシャイン国際水族館からお嫁入りした「箱入り娘」。水族館で生まれ、人工の餌で育ったアイには毒性に慣れる経験はなかったはずです。食べ慣れないアリを捕食するのは本能のなせるわざなのでしょう。でも、短時間に大量に食べたため、胃の中がアリでいっぱいになり、毒の濃度が急激に上昇して、急性中毒のような状態におちいった可能性があります。

 動物病院でレントゲン撮影をしたところ、砂の塊のような影があったとのこと。どうもアリといっしょに土砂も大量に摂取してしまったようです。整腸剤を与えながら、しばらく外に出さず、養生させたところ、すっかり元気になりました。「名は体をあらわす」と言いますが、野生動物の飼育に関しては、アリクイならアリを食べられると単純に考えるわけにはいかないものです。

〔上野動物園東園飼育係 堀秀正〕

(2009年07月31日)



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