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インカアジサシが孵化しました
 └─上野  2009/05/30

 インカアジサシは、「インカ」の名のとおり、南アメリカ西部の海岸地帯に生息し、赤いくちばしと、ひげのように形にカールした白色の飾り羽が特徴的なアジサシのなかまです。

 上野動物園では、西園の水禽舎で飼育・展示しており、毎年繁殖が見られます。野生のインカアジサシは海岸の傾斜地に穴を掘り、巣を作ります。ときには、自然にできた穴を利用したり、ほかの鳥の作った巣穴を、そのまま「居抜き」で使用したりすることもあるそうです。

 動物園では、傾斜地や穴を掘る場所がないため、ケージ内にある高さ約3メートルのテラス状の場所にコンクリート製の「U字溝」を設置し、インカアジサシに巣穴として利用させています。U字溝は土の上に伏せるようにして置き、一端は壁にあててふさぎ、もう一端はあけておきます。こうすると、高い場所に穴があるように見えるため、インカアジサシは中に入って地面に少しくぼみをつくり、産卵します。

 卵はウズラの卵のように黒いまだら模様です。1回の産卵数は2個。卵は親の体のわりには大きく、ニワトリのチャボの卵くらい。重量は約40グラムです。そして、約4週間の抱卵後、ひなが生まれます。灰色の綿毛に包まれた孵化したてのひなは、自分で歩くこともできますが、しばらくは巣の中でくらします。

 ひなは、親と同じくキビナゴを食べます。キビナゴは親からもらい、1匹を丸ごとほおばるようにして食べます。

 ひなは1か月半ほど巣の中でくらした後、巣から出てきます(巣立ち)。巣立ちのときのひなは、親と変わらない大きさですが、体やくちばしは濃い灰色をしており、ひげのような飾り羽もまだ生えていないため、すぐに子どもとわかります。巣立ちをしてもしばらくは親からえさをもらい、少しずつえさのとり方をおぼえていきます。おとなの体色になるまでには約2年が必要です。また、ペアをつくって繁殖できるようになるのも約2年後です。

 今年(2009年)は4月24日に最初のひなが孵化し、5月22日までに全6ペアがすべて孵化しました。例年ですと、大雨の影響で孵化しなかったり、ひなが死亡したりしますが、さいわい今年は大雨もなく、12羽のひながU字溝の巣の中で育っています──と原稿を書いた直後の5月24日、東京地方に大雨が降り、残念ながら2羽が死亡していしまいました。

 残りのひなは、順調に行くと6月中旬には巣立ちます。巣立ちの後、親に甘えながらえさをねだるひなのすがたが見られるようになるでしょう。

写真上:2009年5月19日に孵化したひな
写真中:少し育ったひな
写真下:水禽舎

・東京ズーネットBBの動画
 「インカアジサシの餌やり」(2003年10月撮影)

〔上野動物園西園飼育展示係 神門英夫〕



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