ニュース
スローロリス、出産!
 └─上野  2009/03/20

 お産や病気の経験などを境にして、食の好みが突然変わる、そんな話を聞いたことはありませんか? 人間以外の動物でも、そういうことがあるようです。

 2009年3月2日、上野動物園東園にある「夜の森」で、ジャワマメジカと同居しているスローロリスが出産しました。その日は、いつになく前日のえさを残しており、えさを換えてもなかなか食べに来ません。調べてみると、観客通路側だけを透明なアクリル板にした巣箱の中にうずくまったメスと、そのお腹にしがみついた小さな背中を発見しました。

 出産当日、母親は巣箱から出ず、ずっと赤ちゃんの世話をしていましたが、2~3日経つと、赤ちゃんをお腹につけて展示室中の柵や木の上をせわしなく動くようになりました。

 赤ちゃんは元気なようすですが、母親がえさをまったく食べません。水は飲んでいるのですが……。このメスはもともと体が大きく、最初は体に「たくわえ」があるから大丈夫だろうと思っていたのですが、4日めも絶食のままなので心配になってきました。初めての出産で落ち着かず、えさを食べるのも忘れて隠れる場所を探しているのだろうか、思い切って親子を展示室から離すべきか……。

 迷いながら迎えた5日めの昼、ようやく母親はえさに手をつけました。しかし、好物のバナナなどの果物には見向きもせず、ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ[甲虫]の幼虫)だけを食べて巣箱に戻ってしまいます。出産や授乳の影響で食の好みが変わったのかと、ふだん少量しか与えていなかったコオロギやイナゴ、ミールワーム、ジャンボミールワーム(キマワリ類[甲虫]の幼虫)など、入手できる虫を別の皿にたくさん入れておくと、次の日の朝にはすっかりなくなっていました。

 さらに、獣医師のアドバイスもあり、巣箱を外から見えないように改造したところ、必要以上に動き回る行動も見られなくなり、落ち着いて子育てができるようになったようです。最近では、赤ちゃんを巣箱に置いていったり、金網にひとりでつかまらせたり、スローロリス特有の「置きざり型」の子育ての練習をしています。

 母親の食欲も戻り、しっかりとえさを食べるようになって一安心ですが、果物に加えて虫もよく食べるようになった母親の体重は、次回の測定の際、どうなっているでしょう──ちょっと気になっています。

〔上野動物園東園飼育展示係 中村壮登〕

・東京ズーネットBBの動画「スローロリスの餌タイム」(2009年1月)

(2009年03月20日)



ページトップへ