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チンパンジー「ミル」、“空き缶回収”に成功!
 └─多摩  2008/10/24

 その瞬間は突然やってきました。2008年9月22日、いつものように、朝、チンパンジーを放飼場に出し、観察していたときのことです。空き缶をくわえた「ミル」(メス、5歳)が「空き回収機」の前にやってきました。すると、ミルは投入口に缶を入れ、出てきたコインを手に取ると、すぐに自販機でジュースを購入したのです。

 2000年7月、放飼場に「自動販売機」を設置しました。用意されたコインをチンパンジーが投入すると、ジュースが出てきます。2001年2月2日には、メスの「チコ」がコイン投入によるジュース購入に成功! 以降、この行動は群れ内にひろがり、現在、11頭が自販機で購入できるようになりました。

 その後、2001年7月13日に「空き缶回収機」を設置。投入口をあけ、缶を入れるとコインが出てくるしくみです。自販機がうまくいったから、回収機も成功するのでは、予想していましたが、そうはいかなかったのです……。さまざな試みを続けましたが、成功は見られず、6年もの月日が経ってしまいました。

 いつしか回収機は「ペコ」の昼寝の場所になってしまい、使わないなら撤去してしまったらという声もあがりました。このままでは、彼らの能力が低いからできないと思われてしまうかもしれない。彼らのすばらしさを伝えるのが飼育係なのに……。なにより彼らにもうしわけない! ぼくらの工夫やアイデア、粘りが足りないんだ。

 担当者で話し合い、もう一度試してみようと、2008年4月からチャレンジを再開したのです。

 あらかじめ人間がちょうどよいところに缶を挟んでおけば、そのまま中に押しこむ個体は数個体いましたが、いざ空き缶を回収機から遠ざけてしまうと、もうまったく反応がありません。缶を投入口に入れるとコインが出てくる、という流れを理解してもらうことは、ほんとうにむずかしいことでした。

 そこで、対象を好奇心旺盛な子どもたちにしぼり、まずは飼育係が缶をはさんでおいて、「缶を入れればコインが出てくる」ことを理解してもらうことから始めました。こうした中、理解を深めていったのが、今回みごとに成功したミルだったのです。

 では、空き缶を入れてコインを手にし、そのコインで缶ジュースを買うミルの行動をビデオ↓でごらんください!(34秒)

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 そんなすごいことをやってのけたミルですが、何でもできるかといえばそうでもなく、残念ながら「ナッツ割り」はできません。得意不得意があるのかな?こんなとこにも彼らの個性がありました。

 今後、多摩のチンパンジーたちの新たな文化的行動がどのように伝播していくのか、大変楽しみです。しかし、喜んでばかりではいられません。「缶を入れたらコインが出てくる、そして、またジュースを買う……」。このエンドレスな状態をどうすべきでしょう……。「缶を“二つ”入れるとコインが出る、とかどうかな?」──キーパーも楽しくなってきました。

 でも、今回の一見であらためて思いました──「チンパンジーはすごい!」。

 空き缶回収の行動、こればかりは、いつやりますとは約束できないのですが、みなさんもぜひ、チンパンジーたちのすごさを感じに多摩動物公園にいらっしゃってください。きっと、空き缶やペットボトルをポイ捨てしてしまう人間がいることを恥ずかしく思い、そして、地球環境の大切さを彼らから教えてもらえるのではないでしょうか。
※午後1時30分ごろ、コインを数頭のチンパンジーに渡しています。他の個体が買ったジュースの空き缶を、ミルが回収機に投入することもあります。また、ミルが放飼場に出ていないこともあります。

写真上:回収機に空き缶を入れるミル
写真下:ジュースを飲むミル

〔多摩動物公園北園飼育展示係 木岡真一〕

(2008年10月24日)



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