上野動物園の西園フラミンゴ舎に突然現れた「灰色の鳥」をご存知でしょうか。この灰色の鳥の正体は「ベニイロフラミンゴの幼鳥」です。今回はこの幼鳥が現れた経緯や成長のようすを紹介します。
この幼鳥は今年2025年7月末に孵化し、飼育係に育てられました。このように人が鳥のひなを育てることを「人工育雛」といいます。当園のフラミンゴ舎では、これまで何羽ものひなが親に育てられて成育しており、昨年も1羽が育ちました。しかし今回は、人工育雛をおこないました。その理由は、歴代の飼育担当者も悩まされてきた「野生動物よる食害」を避けるためです。
野生のヘビやネズミによる卵やひなの食害は以前から問題になっており、これまでも対策を講じてきました。その一つとして、巣に産みこまれた卵はすべて飼育係が預かって管理し(親には偽物の卵を抱いてもらいます)、孵化直前に親元へ返すようにしていました。しかし、孵化後間もないひなが野生動物に襲われてしまうことは防げませんでした。
そんななか、昨年は鳥インフルエンザ対策として、フラミンゴ舎を覆うネットを15mm四方の目の細かいものに張り替える工事を実施しました。その際、同時に食害対策としてフラミンゴ舎の周りにネズミ返しを設置しました。これにより食害の減少が期待されましたが、ネズミの侵入は防げたものの、ヘビによる被害は防ぐことができませんでした。さらなる対策が必要でしたが、そのとき群れはもう繁殖期の真っ只中にあったため追加の策を講じることは難しく、今回は生存していたひな1羽を人工育雛に切り替えることにしました。

【孵化後2日目】嘴に卵を割るための卵歯(白っぽい部分)が残る
孵化を確認した当日の7月31日、ひなを両親から預かり保育器へ移しました。ひなは体重100gほどで、フラミンゴらしからぬ白い羽毛で覆われていました。一方で、ピンク色をした脚と嘴や、体のわりに長く大きな脚はすでにフラミンゴの面影がありました。
フラミンゴのひなは本来、両親の喉の奥から分泌する液体「フラミンゴミルク」を飲んで育ちますが、今回の人工育雛では比較的成分の近いネコ用ミルクで代用しました。針のない注射器にミルクを入れ、親鳥がひなにやるように下嘴に垂らすようにして与えます。保育器に移した翌日にミルクを与えてみると、ひなは昨日生まれたとは思えないほど力強くすっくと立ち上がり、ミルクを飲み干しました。
3日も経つと保育器中を歩き回り、目についたものをつつくようになりました。孵化後5日前後で巣立つと聞いてはいましたが、成長の速さには驚かされました。

【孵化後3日目】給餌のようす
孵化後3週間ごろには嘴が下に曲がり始め、このころに生え始めた翼の羽はさらに1か月経つとほぼ生えそろい、灰色の体にピンクの翼という不思議な姿へ成長しました。また面白いことに、水場を用意すると、誰に習ったわけでも見たわけでもないのに、一丁前に水浴びをしたり、成鳥がえさを食べるときに見せる足踏みをしたりするようになりました。このひなにも生まれながらにフラミンゴとしての本能が備わっているのだと感心する出来事でした。
孵化後3か月ごろには体重は2kgを超え、成鳥が食べる固形のえさ(ペレット)を自力で食べられることを確認したところで、群れに合流させる練習を始めました。
10月25日よりフラミンゴ舎へ管理場所を移し、新しい生活環境に慣らしていきました。数日後には群れに合流したものの、最初の数週間は幼鳥も群れもお互いに距離をとっていました。その後は徐々に馴染み始め、群れの中でいっしょにすごす時間が増えてきました。
最近は、成鳥たちを威嚇したり、反対に威嚇されて場所を譲ったりと、群れのなかでの生き方を勉強中のようです。上野動物園に来られた際は、ぜひ幼鳥の成長ぶりを観察してみてください。
人工育雛を通して、ひなの成長をそばで観察できたことは、私たち飼育係にとってたいへん貴重な経験となりました。一方で、群れの中で自然に繁殖させられなかったことは悔しさも感じます。次回の繁殖期にはフラミンゴたちが安心して子育てができるよう、環境や飼育方法の改善を図っていきます。

幼鳥と群れのようす(2025年12月15日撮影)
(2025年12月27日)