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ホッキョクグマ──夏のすごし方
 └─ 2025/08/20
 上野動物園では、「イコロ」(オス)と「デア」(メス)の2頭のホッキョクグマを飼育しています。本来は夏でも冷涼な極地でくらす彼らにできるだけ快適に夏を乗り切ってもらうために、2頭の個性も踏まえながら、ここ数年で管理方法を少しずつ変えてきました。今回は、現在の展示方法に至るまでの経緯をお伝えします。

 「ホッキョクグマとアザラシの海」には、ホッキョクグマの展示スペースとして、大きなプールを備えたコンクリート造りの「大放飼場」と、地面が土になっている「小放飼場」のふたつの放飼場があります。以前は2頭をそれぞれの放飼場に1頭ずつ展示していました。しかし小放飼場は風通しが悪く水場も大きくないため、数年前から、暑さの厳しい期間は大放飼場のみを使い、2頭を交代で展示することにしました。

 そして、その大放飼場の展示についても方法を変えました。以前は空調の効いた室内(室温17℃)と行き来を自由としたうえで、16時30分までの展示としていました。ところが、デアはしばしば室内に入って休息するようすが見られたのに対し、イコロは暑いなかでも室内に戻らず、放飼場に長時間出ていることが続きました。イコロはプールに浸かったり、冷気が届く出入口付近の展示場に留まって外のようすをうかがったりすることを好むようでした。

 しかし、イコロ自身が放飼場を選んでいたとしても、やはり暑い放飼場に1日中留まるのを見ているのは、健康面で不安があります。その一方で、展示を中止して終日室内にいてもらうこともまた、運動量の減少などの観点から、望ましくないと考えました。

 そのためイコロに無理をさせることがないように、2022年からは室内への行き来を自由にしたうえで14時までの展示とし、それ以降は室内に入れることにしました。さらに2024年以降は、日陰がなくなる前の11時30分までの展示に変更しています。

 展示時間中は、少しでも涼しくすごしてもらうことを目的に、えさを封じ込めた氷柱(氷餌)をほぼ毎日与えています。プールに氷餌を投げ込むと、イコロは陸上に持ち出してすぐにガリガリと砕きながら食べています。それに対してデアは、日差しが強い日には日陰まで氷柱をくわえて運んだり水中でかみ砕いたりと、涼しい場所を選んでいるようすが多く見られます。氷餌を食べる際の行動にも、それぞれの個性が感じられます。


放飼場にて氷柱を採食する「デア」


氷柱を採食する「イコロ」。氷柱は室内でも給餌しています

 ここ数年の管理方法の変更は、こうした2頭の個性も踏まえ、観察をしながら少しずつ検討してきた結果です。

 筆者は2頭の飼育管理に携わって数年が経ちますが、柵越しに見る迫力、体毛の美しさや想像を超えた身体能力など、ホッキョクグマという種の魅力を日々感じています。

 飼育担当者として、来園者の方々にもこの魅力を実感していただきたいと強く考えています。2頭の健康維持を徹底しつつ、より多くの来園者の方々に生き生きとした2頭を見ていただく機会を設けられるように、今後も夏季の管理方法を模索していきます。

〔上野動物園東園飼育展示係〕

(2025年08月20日)


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