みなさんはコビトカバという動物をご存じですか? コビトカバはカバのなかまですが、カバが川や湖などに生息しているのに対し、コビトカバは熱帯雨林に生息し、体の大きさから食性までもカバとは異なる動物です。コビトカバは体毛がなく、皮膚が乾燥に弱いことから、冬季にはあかぎれができることがあります。今回は2022年10月ごろからおこなった、コビトカバのあかぎれ対策についてご紹介いたします。
上野動物園のコビトカバ舎では、秋から冬にかけて気温や水温が下がってくると、ボイラーにより室内プールの水温度を約20℃に上げてコビトカバたちが快適にすごせるようにしています。しかしその一方で、冬の乾燥により深刻なあかぎれができていました。「なんとかコビトカバのあかぎれができないように対策ができないか……」とさまざまな試みをおこないました。ポイントは、プールの水温調節の時期、空気の加湿、皮膚の保湿と血行促進の3つです。
1. 水温調節の時期
秋から冬の乾燥する季節にプールに入る回数が増えると、どうしてもあかぎれになりやすくなります。そのためコビトカバのようすをよく観察しながら、例年よりプールの水温調整を上げる時期を遅らせることにしました。例年より1ヵ月ほど遅い調整開始としましたが、特に問題なくすごしていました。
2. 空気の加湿
プールから出たあと、長時間陸上にいると皮膚が乾燥し、鱗状になっていることがあります。そのため、陸に上がっても十分な潤いを皮膚に与えられるように、徹底した空気の加湿をおこないました。コビトカバが室内にいるときは、ミスト加湿器を2台同時に運転させ、屋外展示場ではミスト噴霧器を稼働させました。室内が霧で覆われるほど強力な加湿により、湿度を最高99%、平均60%ほどに保ちました。また屋外の展示場では、プールに入らなくてもミストの下を通るだけで体が潤い、常につやつやした皮膚になっていました。

ミスト加湿器
3. 皮膚の保湿と血行促進
空気の加湿に加えて、予防のために全身、特にあかぎれができやすい前肢やあごの周辺にワセリンとオリーブオイルを混ぜたものを塗布しました。さらに少しでも血行促進につながればとエアコンによる室温調節、手やゴムブラシを使用したマッサージをおこないました。

血行促進マッサージ
これらの対策を継続しておこなった結果、今年の冬は2頭ともあかぎれの発症を抑えることができました。あかぎれが発症していないだけで、QOL(生活の質)の向上や活動意欲の促進につながったのではないかと思います。ただし今年は気候などに恵まれたためにあかぎれが発症しなかった可能性もありますので、今後も対策を継続しておこなっていきたいと思います。
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2021年冬のあかぎれ (撮影月:2022年5月) | 今年はあかぎれは見られません (撮影月:2023年1月) |
コビトカバたちがより活動的で変化のある1年をすごせるよう、これからもさまざまな取組みをおこない、どのような季節であっても最高の皮膚コンディションを保っていけるよう管理していきたいと思います。
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あご下マッサージ | マッサージをすると必ず舌が出ます |
〔上野動物園西園飼育展示係〕
(2023年03月12日)