動物園では動物の検査や治療、安全な移動をおこなう際に麻酔をすることがあります。麻酔をかけると動物は寝ている状態となり、治療などによるストレスや不安を軽減するためには欠かせない処置である一方、心臓や肺の機能を下げ、全身の血液の流れが遅くなり、呼吸が弱くなるといったリスクもともないます。
そのため動物園の獣医師は動物の種類や体重に合わせて、麻酔中の動物の「呼吸」管理を慎重におこなっています。今回はその際に使用している「気管内チューブ」「喉頭鏡」「人工呼吸器」の3つの大事な道具について紹介します。
気管内チューブは、口の奥にあるのどの真ん中あたりに位置する喉頭(こうとう)から気管へ挿入する管です。空気の通り道を確保し、麻酔中に安定して麻酔ガスや酸素を体内に送ることができるほか、唾液や嘔吐物が気管に入るのを防ぐ役割もあります。

さまざまなサイズの気管内チューブ
喉頭鏡はチューブを気管内に通す際に舌を押し下げて喉頭の先にある気管の入り口に明かりを照らして見やすくする道具です。
動物病院では動物の種類や口の大きさ、体重、気管の太さによっていろいろなサイズの気管内チューブと喉頭鏡を使い分けています。

さまざまなサイズの喉頭鏡
万が一、動物の呼吸が浅く弱くなった場合には、人工呼吸器をチューブに接続して呼吸をサポートします。これは一定のリズムで酸素を送り込み、動物の生命を維持する機械です。麻酔のかかり具合に応じて空気を送る量や回数を細かく調整します。
麻酔中は獣医師や飼育係が呼吸の回数や胸の動き、舌や粘膜の色などをモニタリングします。また、心電図の拍動の数値や波形を確認しつつ、聴診器で心音や肺の呼吸音を聴診するなど、さまざまな方法で獣医師が直接心臓や呼吸の状態を確認することで緊急時にすぐに対応できるようにしています。
動物園での麻酔管理の特徴は、動物ごとに体の構造や呼吸の仕組みが大きく異なることです。哺乳類、鳥類、爬虫類などの種類だけでなく体の大きさも多様な動物を飼育する動物園では、それぞれに適した気管内チューブと喉頭鏡の選択や呼吸管理が求められます。

気管内チューブを使用して麻酔中のライオンの呼吸管理をしているようす
どの動物の麻酔もつねに緊張感があり、事前の準備やシミュレーションが重要です。飼育係とともに個体の年齢や性格を考慮しながら、麻酔をかけてから起こすまでの流れを丁寧に打ち合わせしています。今後も安全に動物の麻酔がおこなえるよう、動物園医療の向上に取り組んでいきます。
〔多摩動物公園飼育展示課動物病院係 加藤〕
◎関連記事
・
動物病院の道具の秘密(2024年01月26日)
・
モルモットの不正咬合(2025年01月18日)
(2026年01月16日)