多摩動物公園では、2025年11月から無麻酔での採血に向けたモウコノウマのトレーニングを開始しました。これまで、採血は麻酔をかけた状態でおこなっていましたが、動物への負担や麻酔薬の影響により正確な検査結果が得られない懸念があり、トレーニングにより動物が自発的に採血しやすい行動をとってくれれば、麻酔を使用せずに採血が可能となります。
安全面から、人がモウコノウマと同じ空間に入ることは基本的にありません。そのため、採血は柵越しで実施する必要がありますが、採血するためにはウマが同じ場所に留まり、針を刺すところまで嫌がらずに応じてもらう必要があります。そのために、まずは「ターゲットトレーニング」でウマを採血場所に誘導することから始めました。
ターゲットトレーニングとは、人が提示した物(ターゲット)に動物のほうから触れるようにトレーニングをすることです。今回はターゲット棒の黄色い部分に鼻先を触れてもらうように練習しています。モウコノウマが鼻先をターゲット棒にあてると、ごほうびとなるえさを与えるということを繰り返すことで、学習効果によりターゲットに寄ってくるようになります。

トレーニングで使用しているターゲット棒
現在トレーニングしている個体はオスの「クヴァジー」です。クヴァジーは繁殖制限のため、普段はメスの群れと離れて1頭で過ごしているのでトレーニングがしやすい状態でした。また、日中は人の作業がよく見える場所にいるので、トレーニング道具などの見慣れない物にも慣れやすいかもしれないと思ったからです。
個人的に一番の気がかりはトレーニング道具に警戒されてしまうことでした。モウコノウマはとても慎重な性格のため、一度警戒されると慣れるまで大変な時間を要します。そこで、窓際にターゲット棒を置いて見慣れさせることにしました。オスのクヴァジーは初日から気にする様子はなく、これまでどおり過ごしていました。

窓際でのんびりするクヴァジー
道具に数日慣らしたのち、トレーニングを開始しました。窓の格子から棒を少し出して鼻先が触れたらえさを差し出すと、やや戸惑いながら食べました。数回繰り返すと、一連の動作が滑らかになってきました。1回のトレーニング時間は5分程度です。短時間で止めることで「もっと食べたい、もっとやりたい」という意欲を継続させます。
トレーニングを開始して1か月ほどが経過しました。初めのころは窓以外からターゲットを出すとやや警戒していましたが、現在では放飼場側からの提示にもスムーズ寄ってくるようになりました。
モウコノウマのターゲットトレーニングのようす
モウコノウマの警戒心の高さから、トレーニングは難航すると思っていましたが、クヴァジーは予想以上に穏やかな反応を見せ、順調に進んでいます。次の目標は採血場所に留まらせることです。いずれ、全頭が無麻酔で採血できるよう、トレーニング方法に試行錯誤を重ねていきたいと思います。
〔多摩動物公園 南園飼育展示第1係 塩谷〕
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