生物種が、ある季節に限定して繁殖することを「季節繁殖」と言います。ニホンザルはこの季節繁殖動物です。野生のニホンザルは日本列島に広く分布するため、その生息地域によって出産期にばらつきがありますが、おおむね4~6月に出産します。
多摩動物公園では小豆島由来の個体群が飼育されており、出産は4〜5月に集中しています。妊娠期間はおおよそ6か月であるため、この群れにおける繁殖行動の最盛期は10〜11月ごろになります。

繁殖期のオスとメス
哺乳類を含む多くの動物には雌雄が存在し、メスとオスがお互いに魅力を感じる相手を選んで交尾することで子孫を残す社会構造をもっています。秋を迎えたサルたちにとって最大の関心事は異性の存在であり、それは生物種の維持に必要なことです。
2025年の夏、多摩動物公園でも猛暑日が続きました。9月に入ると暑さの中にも毎日動物舎で記録している温度計の示す最高温度が少しずつ下がっているのが観察され、9月中旬を過ぎるころには私たちヒトが生物としても秋への季節変化をはっきりと体感するようになりました。サル山で生活する63頭のサルたちもその秋の気配を感知したらしく、ニホンザルという種が遺伝的にそなえる季節限定の繁殖への準備が始まりました。
ニホンザルはその生理・生態的特徴として、おおよそ9月〜12月にかけて交尾・妊娠が可能になります。9月になると少しずつサルの体や行動が変化してきます。オスは肩を怒らせ尾を挙げ、顔とお尻が赤みがかり、精嚢には睾丸が落ちて鶏卵大にふくらみます。

繁殖期のオス
メスもオス同様に顔とお尻が赤みがかり、さらにはホルモン動態の影響により断続的に繁殖期特有の鳴き声を発します。野生のモンキーウォッチングにおいても秋の繁殖期には騒がしい鳴き声やオスによる木ゆすり、メスがオスの注意をひきつけてオスがメスを追いかける行動などによって群れの存在が確認しやすく、観察に適した季節になります。

繁殖期のメス
この時期に交尾したメスは、約6か月の妊娠期間を経て春にアカンボウを出産します。春に出産することはニホンザルという種にとって大きな意味をもちます。その理由は、サルたちの主食である草花や樹木の種子・果実・葉・樹皮・花・花芽・葉芽など植物の生長が始まる季節に当たるからです。
秋の繁殖時期にはオスどうしやメスを巻き込んだ闘争が起こります。これは、異性に関心を持ったサルたちのお互いの距離が近くなり、さらに繁殖に向けて気持ちが高まっていることが影響しています。このような、闘争を含んだニホンザルの繁殖行動が春の出産につながることを想像しながら、サル山での群れ社会の躍動を観察してください。
〔多摩動物公園南園飼育展示第1係 由村〕
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