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昆虫たちの冬、それぞれのすごし方[2]
 └─ 2025/03/01
 前回に続き、多摩動物公園の昆虫園の職員数人で「昆虫園の周りにいる冬の虫」を探してみました。

 今回は昆虫広場(園内マップ⑪・⑫番)の周辺です。広場周辺はもともと春や夏でも花などが咲き誇っているわけではないので、一年を通じて目立つ生きものが少ない場所ではありますが、よく見てまわるといろいろな昆虫が見つかります。

 まずは木の杭を見てみます。


矢印が木の杭。園内各所に同じものがあります

 表側からだととくに違和感はないですが、裏側から覗くと……なんだか多数の針で刺したような穴があります。


日の当たる表から見た杭と裏側のようす

 この穴はすべてセミの産卵痕(さんらんこん)です。この杭の裏側は日差し、とくに西日が当たりにくい向きなので、あえて選んでいるようで興味深いです。ささくれ立って見える穴(青色)はおそらく半年以内にできたもの、そうでない穴(オレンジ色)は1年以上前のものだと思われます。

 セミの産卵シーンに立ち会った人はあまり多くないかもしれませんが、セミのなかまは生きている木の幹や枝、枯れ木に卵を産みます。杭は素材が木ではあるものの、本来の産卵場所とは異なります。それでも立っている場所や湿り具合などが似た質感に感じられるのか、前回紹介した看板と同じく、世代を超えて選ばれる産卵場所になっています。

 次に石垣に向かってみましょう。石垣を好む昆虫は意外と多く、どの季節でも誰かは利用しているという、観察のおすすめスポットですが、とくに冬は日が当たると石やコンクリートが温められて居心地がよいからか、小さな昆虫が立ち寄る姿を目にする機会がとても多いです。


南側を向いている石垣

 しばらく観察していると、いちばん多く目にするのはハエのなかまたち。観察中にも新たに飛んでくる個体がいるほどです。

 ハエは昆虫のなかでは冬も元気なグループの代表ではあるものの、やはり寒さは堪えるのか、あまり積極的には動き回りません。ギリギリまで近づいても飛び去ってしまうことは少ないため、温かい季節には観察することが困難な、脚や翅、毛並みといった体のつくり、種によっては鮮やかな模様がついている大きな複眼なども見放題です。


石垣周辺に来ていたハエのなかまたち

 ハエに次いで見かけるのがカメムシのなかま。彼らのなかまにも寒さを気にせず活動しているものがいます。この種はケブカカスミカメといって、もとは西日本でくらしていた種ですが、近年温暖化とともに東京にも進出してきたとされています。

 東京の冬は西日本よりはやや厳しいかもしれませんが、ハエたちと同じく少しゆっくりとした動きで歩き回っているものが何匹かいました。遠目にはわかりづらいですが、拡大して見るとまだら模様や白い毛並みが魅力的な種です。


ケブカカスミカメ。石垣と周辺に絡んだ植物を行き来しています

 多摩動物公園内は敷地が広いうえに土地の高低差も大きく、昆虫園以外にもいたる場所に石垣があります。日当たりの良し悪しや植物の有無などでも昆虫の集まり方に差が出てくるので、各動物舎から動物舎へ移動する合間に石垣と杭の観察はいかがでしょうか。体長1cmを下回る小さい種が多いので、ルーペなども持参すると模様や構造がはっきり見えてより楽しめます。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺〕

(2025年03月01日)


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