多摩動物公園では、このたび世界初となるアズマモグラの繁殖が確認できましたので、お知らせします。なお、子は死亡して発見されています。
この繁殖状況の確認にあたっては、国立大学法人福島大学共生システム理工学類の
兼子伸吾准教授のご協力をいただいております。
飼育下でアズマモグラの雌雄を同居させ、交尾から出産に至ったのは、世界的に見ても前例がありません。今回の繁殖では、残念ながら子は死亡して発見されていますが、地中に暮らし、未解明な部分が多いモグラの生態解明にむけた大きな成果です。
生まれたアズマモグラ
誕生日 不明
確認日 2023年7月11日(火)
頭数 1頭
性別 メス
両親 母親:No.236(年齢不明)
2021年11月24日 多摩動物公園内にて捕獲
父親:No.234(年齢不明)
2021年5月31日 多摩動物公園内にて捕獲
2024年7月8日 死亡
※捕獲にあたっては、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律に基づく許可を得ています。
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死亡して発見されたアズマモグラの子 | アズマモグラ飼育ケース |
経緯
モグラは地下性の動物であり、繁殖を含む生態については未解明な部分が多くあります。飼育すること自体も容易ではなく、昨年出版された総説論文においても飼育下での繁殖例は世界的に見てもまだ無いとされています(Jiménez et al. 2023)※。
多摩動物公園では、1998年からモグラ類の飼育を継続してきましたが、飼育下での繁殖には至っていませんでした。2022年より、あらためて飼育下でのアズマモグラの繁殖を目指して、落ち着いた環境で繁殖ができるように飼育ケースを複数用意したり、雌雄の同居の時期を限定したりするなどしてきました。No.236(メス)とNo.234(オス)の2頭については、断続的に同居を重ね、2023年3月6日以降は終日同居させていました。2023年7月11日に飼育ケースを確認したところ、メスの死体と生存個体2頭を発見し、飼育ケース内で繁殖したことが判明しました。なお、No.236(メス)とNo.234(オス)の同居を開始するまでは、10か月以上単独で飼育しているため、No.236(メス)が野生で妊娠し、出産した可能性はありません。
生存個体2頭の性別を確かめるため、野生生物保全センターにてPCR法による性別判定をおこなった結果、生存しているのはオス1頭とメス1頭であるとわかりました(2023年12月21日)。これにより、生まれた子はメスであることが判明しました。
観察から、当初は死亡メスが母親(No.236)、生存メスが子であると考えられたものの、確実な判断をおこなうため、アズマモグラの親子判定に実績のある福島大学の兼子准教授などとの協力により、野生生物保全センターで遺伝マーカーを用いた親子判定検査をおこないました。その結果、死亡個体は生存オス(No.234)と生存メスの対立遺伝子を受け継いでおり、当初の予想に反し生存メスは母親、死亡個体は子であることが判明しました(2024年7月5日)。
残念ながら、子の死亡が確認されたものの、飼育下で繁殖した事実は生物学的に貴重な知見であることから、福島大学と共同で発表するものです。
今回繁殖に成功した雌雄については、2024年8月31日現在、メスのみが生存しており、非公開の施設で飼育しています。
※The Biology and Evolution of Fierce Females (Moles and Hyenas). Annual Review of Animal Biosciences, 11(1), 141-162.
当園での飼育状況(2024年8月31日現在)
1頭(メス)
日本国内の飼育状況(2024年8月31日現在)
1園館 多摩動物公園のみ
資料:(公社)日本動物園水族館協会ホームページ飼育動物検索および当園独自調査の結果より
(2024年09月02日)