飼育係にとって、飼育している生物はどれもかわいいものですが、やはりその中でもお気に入りの生物というものがいます。私の場合、そのひとつが「世界の海」エリアの「アルゼンチン沿岸」の水槽で展示しているペスチャンチョという魚です。
ペスチャンチョのからだの色は、こげ茶色でとても地味です。水槽をパッと見てもいないよという方は、岩の下を探してみてください。ふだんは岩のすき間に隠れています。
そんなペスチャンチョがいっせいに出てくる時があります。それは餌の時間です。どこからともなくフラフラ~とあらわれ、すばやく泳ぎまわるタイのなかま、シルバーポーギにぶつかりそうになりながら、夢中で餌を追いかけます。餌の食べ方がユニークで、先の細い口でシュポっと吸い込むように食べます。
ペスチャンチョのからだの色はこげ茶色と書きましたが、本当は茶色と白のまだら模様です。あまり動かないせいか、からだにいつしか茶色のコケがついてしまうようです。最近は赤い色のコケまでついて、一見、怪我をしているのかとびっくりしてしまいます。
このままどんどんコケむして、毛むくじゃらになったら面白いと思いませんか? でも残念ながら、そうはならないのです。驚くべきことに、このペスチャンチョは、皮膚が古くなると脱皮をします。脱皮といってもカニのようにきれいに脱皮殻が残るような方法ではなく、トカゲのように、細かくちぎれながら皮がむけていきます。水槽の中に、フワフワした透明なゴミのようなものが漂っていたら、それはペスチャンチョが脱皮した皮かもしれませんね。
「世界の海」エリアには日本近海にはいない魚も多く、そのような場合は名前を日本語ではなく、現地の名前で紹介しています。ペスチャンチョもそのひとつです。現地のスペイン語で「ペス=魚」「チャンチョ=豚」という意味があります。言われてみると、豚に似ているかな? ぜひ、本物をご覧ください。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 高濱由美子〕
(2007年9月14日)
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