葛西臨海水族園は1991年にフェアリーペンギンの飼育を開始しました。現在、国内46羽のうち22羽が水族園にいます。しかし2005年以降、日本へのあらたな個体の導入が途絶えていました。そのため、国内の飼育施設どうしで協力し、遺伝的多様性をなるべく保つように繁殖計画を進めてきましたが、血縁関係が近い個体が多くなり、あたらしい血統を導入する必要が出てきました。
生きたペンギンの輸送の課題と有精卵の可能性
生きたペンギンを海外から運ぶには、高病原性鳥インフルエンザなど感染症のリスクや、長時間の輸送によるストレスといった課題があります。そのため、より安全で負担の少ない方法として、有精卵の輸送に注目しました。
2017年から、オーストラリアやニュージーランドの動物園が加盟する「オーストラレーシア動物園協会」(ZAA)と調整を進めた結果、オーストラリアの「バララットワイルドライフパーク」から有精卵を譲り受けることが決まりました。また、有精卵の輸送を確実におこなうための技術開発にも取り組み、2021年から国内の動物園間で有精卵の輸送を試験的に実施してきました。

バララットワイルドライフパーク
有精卵の輸送と孵化への挑戦
こうした準備を経て、2025年7月3日、バララットワイルドライフパークから水族園に有精卵を輸送することに成功しました。
オーストラリアでは2025年6月10日から27日に産卵された卵を現地の孵卵器に入れて管理してもらい、水族園の職員が現地で卵4個を携帯用の孵卵器に移し替えました。輸送は陸路と空路を組み合わせ、卵を振動や温度変化から守るために、飛行機内では座席を1つ確保して管理しました。7月3日夜、無事に葛西臨海水族園に到着。準備していた孵卵器に移して温め続けました。
フェアリーペンギンの海外からの有精卵輸送は、日本では初めての取り組みです。

携帯孵卵器の内部。卵が4つある

飛行機内の座席に置いた孵卵器

水族園に到着後、卵を孵卵器に移す
ひなの誕生とその後
運んだ4卵のうち、3つは無精卵でしたが、1つは順調に発生が進み、7月12日に孵化しました。慎重に人工育雛をおこなましたが、残念ながら7月15日に肺炎で死亡しました。

孵化したひな(2025年7月12日撮影)
今後の展望
今回の取り組みは、葛西臨海水族園だけでなく、バララットワイルドライフパークやZAAの協力のもとで実現しました。国際的な連携は、飼育下の動物たちの遺伝的多様性を守る上で非常に重要です。今回はひなの育成にはいたりませんでしたが、有精卵の輸送と孵化に成功したことは大きな一歩です。
今後もこの挑戦を続け、国際的な連携をさらに強化しながら、国内のフェアリーペンギンの個体群維持に貢献していきます。
(2025年07月27日)