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オナガの巣が完成するまで──第1回「2024年までのおはなし」
 └─ 2025/12/24
 オナガは、体は青灰色で頭部は帽子を被ったように黒く、長い尾羽が特徴のカラスのなかまです。その美しい見かけによらず、「ギューイギューイ」と騒がしい鳴き声も特徴の一つです。数羽~20羽の群れで生活し、日本ではおもに本州の東側を中心に生息しています。


オナガのペア

 井の頭自然文化園では、2022年から「野鳥の森」でオナガ2羽を同居させ、キジやムクドリなどのほかの鳥といっしょに展示をしていました。この2羽は傷病などの理由で保護された個体ですが、保護された年や場所が異なっていても相性がよく、同居後は行動をよくともにしていました。そんな2羽の繁殖期間中の巣作りについて、2回に分けてお届けします。

2023年の繁殖

 オナガの繁殖期は5月から8月です。繁殖期になると、まずメスが鳴いてえさを求め、オスがメスにえさ渡しをおこなう「求愛給餌」や、ペアで協力して「巣作り」を始めます。同居を開始してから約1年後の2023年6月、「野鳥の森」で初めて繁殖行動を確認しました。

 この時期のオナガはふだんより攻撃性が強くなります。オナガのペアは同居しているほかの鳥のなかでも、とくにキジに対して威嚇や攻撃を繰り返していました。落ち着いた環境で巣を作るができず、巣材となる枝をいたるところに運んでしまい、場所を定められずにいました。

 そこで、枝を比較的よく運んでいた場所に、職員が枝で組んだ巣台を作り、設置してみました。しかし、警戒心が強くなる繁殖期に人が立ち入ったことが影響したのか、作った巣台は利用されず、自力で巣を作ることもありませんでした。

職員が作った巣台
職員が作った巣台と設置した場所
(下から見上げたようす)

 結局、2023年は地面やえさ台の上などに卵を産み落として、繁殖期は終了しました。産んだ卵は2羽が興味を示さなかったため、職員が回収して孵卵器(ふらんき)で温め、1卵孵化させることができましたが、孵化して5日目で残念ながら死亡しました。

 かつて当園で、オナガがペアになり繁殖行動まで見られた記録はありません。そのため、園の施設で繁殖する環境を自分なりに検討する必要がありました。まずは、オナガが繁殖に集中できる環境を整えることを課題とし、次の年の繁殖期に向けて取り組みを開始しました。

2024年の取り組み──集中できる環境をめざして

 ほかの鳥の影響をなくすために、ペアだけで飼育できる「和鳥舎」に2023年の11月に移動しました。また、前回メスが巣を使わなかったことから巣台に問題があったと考え、2羽を移動する前に、オナガが巣を作りそうな場所に職員が作った巣台を設置することにしました。

 木のまたの上に竹製の丸いザルを置いたもの、壁沿いの高い場所にプラスチックネットを置いたものなど、計3か所です。2羽は巣台の上に乗って居心地を確かめ、最終的に壁沿いに設置したプラスチックネットの巣台を選びました。巣材として小枝や市販のシュロ縄をほどいた繊維を毎日2羽に与えて巣作りをサポートしました。


巣作り初期のプラスチックネットの巣(下から見上げたようす)

 野生のオナガは群れで生活し、ペア以外のオスが「ヘルパー」として協力しながら巣作りや子育てをおこないます。そのため、ヘルパーがいなくても2羽でしっかりとした巣を作ることができるのか半信半疑でした。

 繁殖期になった2羽の行動を観察したところ、枝やシュロなどの巣材を運び始めて約2週間で、写真のような立派な巣を作りあげたのです。安心したと同時に、ヘルパーなしで巣作りをすることに驚かされました。


完成した巣

 これで繁殖がうまくゆくかもと期待しましたが、巣ができたとたん、メスが巣に関心をなくしたように見え、その予感は的中しました。メスは前年同様に巣ではなく地面に卵を産み落としてしまったのです。これは、オナガにとって安心して産卵できる巣ではないことを示しています。そこで一度、作られた巣に擬卵(本物に似せた偽物の卵)を置いて、巣での産卵を誘導してみましたが、結果は変わりませんでした。

 要因としては、巣の周りに隠れる場所がなかったことや、巣台の面積が大きくて落ち着かなかったことが考えられます。しかし、前年から環境を変え、2羽で立派な巣を完成できたことは、繁殖に向けた大きな進歩と言えるでしょう。

 2025年の繁殖期は、巣を作り、さらにその巣に卵を産むような環境作りを次の課題としました。その課題に挑んだ結果はどうなったのでしょうか。続きは第2回でお伝えします。

〔井の頭自然文化園飼育展示係 寺原〕

(2025年12月24日)


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