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チンパンジーの人工授精に向けた取り組みを進めています
 └─多摩  2016/10/19

 多摩動物公園では現在、2歳の「フブキ」を含む17頭のチンパンジーたちがにぎやかにくらしています。大所帯に見えますが、国内での血統管理と群れの存続のために繁殖できるペアはかぎられ、今後の人工授精を視野に入れた取り組みが必要です。野生由来の「デッキー」や「サザエ」はとくに貴重な存在です。「マリナ」の血統も多摩では貴重です。

 オスのデッキーは、多摩動物公園に来る前に小さいころから人間といっしょに過ごしていたため、自然な交尾ができず、繁殖のためには人工的に精子を取る必要があります。そこでヤギ用の人工膣を用いて採精する試みを始めています。

オスの「デッキー」と遊ぶ
デッキーに人工膣を使用

 射精直後、オスの精液の大部分は固形状になります。自分が交尾をした後、他のオスの精子を遮断する「膣栓」の役割を果たしていると考えられます。デッキーは飼育係と遊んでいて盛り上がったときや、身体の大きな男の人に敵対心を抱いたときに射精することがあります。その際、「渡して」とお願いすると、固形の射精物を手渡しで私たちにくれることがあります。こうして得た精液を園内の野生生物保全センターで調べた結果、精子に活性があることがわかりました。

 メスについては、今年(2016年)7月からサザエとマリナの2頭にヒト用の排卵検査薬を使い、排卵日を確定する試みをおこないました。発情期間3クール分の検査をした結果、1回目はあまりうまくいきませんでしたが、2回目、3回目は排卵日を予測することができました。

性皮チェック(発情していないメス)
性皮チェック(発情しているメス)

 また、チンパンジー舎では昔から発情状況を見るため、メスのお尻を毎日飼育係がチェックしています。「お尻を見せて」とお願いすると、みな、お尻を柵越しにこちらに向けてくれるのです。「性皮」と呼ばれるメスのお尻の皮膚は、ふだんはしぼんでいるのですが、発情ピークに向けて腫れていきます。このときにその性皮を触り、腫れ具合を確かめることでも妊娠適期の予測ができるので、判断材料の一つにしています。

また、将来は無麻酔で人工授精をおこなうことができるように、お尻にチューブを注入するトレーニングも始めています。新しく入った係員にはなかなお尻を見せる体勢を長く保持しない2頭ですが、長く付き合っている係員には長い時間体勢を保持しています。それでも、こちらが道具を持っていると警戒し、なかなか快く対応してくれるところまではいきません。チンパンジーとの信頼関係の重要さについて、考えさせられる毎日です。

 人工授精に向けた取り組みは始まったばかりですが、将来の国内のチンパンジーの繁栄に向けて職員全員で取り組んでいます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田瑞穂〕

(2016年10月21日)


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