「ワウォーーン」──多摩動物公園の「アジアの平原」にオオカミの声が響き渡ります。オオカミを思い起こすとき、遠吠えをイメージする方も多いでしょう。「赤ずきん」「3匹の子ぶた」をはじめ、童話や物語にも多く登場し、ずる賢く恐ろしい悪役として登場することもあります。みなさんは、オオカミに対してどのようなイメージをおもちでしょうか。
多摩動物公園ではタイリクオオカミを飼育していますが、その行動はまちまちです。朝、開園前にオオカミ舎を見に行くと、横になったまま、眠たげにこちらに視線をよこす個体。閉園時間が近づくと、それぞれ落ち着く場所におさまってくつろぎ始める個体。暑い日は室内の扇風機の前を陣取る個体。
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くつろぐタイリクオオカミ | 床のパイプにおさまった個体 |
ある日のこと、床の排水用パイプにすっぽりと納まっていた個体がいました。理由ははっきりとはわかりませんが、猛暑日に何度かこの行動を目撃したので、涼んでいたのだと思われます。そのままの姿で、飼育係である私と見つめ合うことになりました……。
人類の歴史や文化の中でオオカミは時に神格化されたりするとともに、家畜を襲う害獣として恐れられ、嫌われ、多くの生息域で数が減っていきました。ニホンオオカミが絶滅したのも、人間による駆除が原因の一つといわれています。
しかし、彼らはとても美しく愛らしい生き物です。多摩動物公園の「アジアの平原」で、じっくり時間をかけて観察してみてください。オオカミたちにとって苦手な暑い季節もまもなく終わり。穏やかな秋が過ぎると、やがてフサフサの冬毛が生えてきます。よく見ていると、群れの中でおたがいに特徴的なしぐさを見せることもわかります。
「怖そうな動物」とイメージでとらえるだけでなく、生きたオオカミの姿や行動を、時間をかけて観察してみてください。きっと発見があるはずです。彼ら自身が、オオカミという生き物の魅力について私たちに語りかけてくれることでしょう。
オオカミたちとともに、アジアの平原でお待ちしています。
〔多摩動物公園南園飼育展示係 比留間麻海〕
(2016年09月16日)